食のこと
「旬」は進化のプレゼント
旬の食べものには、その季節で不足しやすい栄養や生じやすい不調を整えてくれるという性質があります。夏のトマトやキュウリなどは暑さにより不足しやすい水分やカリウムを補ってくれますし、冬の温かいダイコンは冷えを内側から温めたり、感染症に対する免疫力を高めてくれます。
そもそも旬の作物とは、「その季節の環境下に適応して育ったもの」。水分や糖、ミネラル、食物繊維など、栄養バランスや量が、進化の結果、人にとってもその季節に沿った形になっているのだそうです。
たとえば、寒い時期に旬を迎えるダイコンには、「じっくり温めると甘くなる」という性質があります。弱火で時間をかけて火をとおすと、ダイコンに含まれる甘味をつくる酵素にとって「ちょうど良い温度」で保たれ、甘みが増します。この性質自体は、人にとっては「美味しく食べる」ためのひと手間ですが、実はダイコンの方にとっては寒さの厳しい冬を乗り切るための「防衛策」なのだそうです。
冬、寒い季節を生きる植物にとって一番の脅威となるのは「細胞の凍結」です。細胞が凍ってしまうことは植物自身が凍死してしまうことにもつながるので、どのように寒さから身を守るかは、死活問題です。
そこで植物が進化の過程で獲得した知恵が、「体の中を甘くする」こと。「細胞のなかが何かの成分で満たされて濃くなると、凍りにくくなる」という原理を利用したものです。甘味の正体である「糖」をデンプンから分解して細胞のなかを満たし、凍結を防いでいます(「凝固点降下」による植物生理)。

こうした特性は野菜に限った話ではなく、メープルシロップの原液を採取できるイタヤカエデなどでも観察することができます。生きた細胞がつまっている「形成層」という部分が凍結しないように、樹液を甘くしています。その樹液を人が採取し、時間をかけて何度も何度も、何度も煮詰めたものが、メープルシロップです。冬野菜もカエデの樹液も、植物が進化の過程で獲得してきた「寒さに適応するための知恵」の結果、甘くなっているのだといえます。

旬の食材を食べるとき、わたしたちは知らないうちに、植物が何万年と時間をかけて獲得してきた叡智をありがたく受け取っています。「旬のもの」がもつ力には、想像を絶するような長い時間と自然淘汰の末に行きついた、神秘性があるような気がしてなりません。