ニュース&リポート NEWS & REPORT

REPORT

森林経営への関心を高めるには 東京農業大学 山下詠子先生 -後編

PROJECT:nisou

「森と人の未来のために いまできること」をビジョンに掲げるわたしたちトリイアンドカンパニーが、各地で活躍する森のスペシャリストの方々にお話を伺い、実感や共感を発信していく企画。今回は前回に引き続き、森林の所有者の課題にお詳しい東京農業大学 森林政策学研究室山下詠子准教授にお話を伺いました。

東京農業大学 地域環境科学部
森林総合科学科
准教授 山下詠子 先生

東京農業大学の森林政策学研究室に所属し、農山村の地域コミュニティと森林の関わりを軸に、入会林野、共有林管理、森林政策、森林所有制度などを研究。テーマは「地域の共有林についての研究」で、東京大学在学時は、博士論文「長野県における林野入会の現代的変容―所有形態と入会集団に着目して―」を執筆し、入会林野の所有形態の変化と、それが地域の共同利用や森林管理に与える影響を明らかにしました。主な実績として、単著『入会林野の変容と現代的意義』(東京大学出版会、2011年)ほか。

日本の森林課題に影響を与えたのは木材価格の低下だけではない

現在の日本の森林が放置されている主な原因として、「木材の価格が低下したこと」が背景にあるとよく言われます。ですが、森林所有者自身が山に関心を持ちにくくなったことも影響していると思っています。木って、伐るかどうかを決められる唯一の人は、所有者なんです。日本では土地の所有権がとても強いので、どれだけ良い木があってもそれを伐るかどうか、活用するかどうかを決めるのは、基本的に森林所有者です。さらに現代は、相続によって森林を所有していても、自分が山を持っていること自体を知らないという所有者も多くいます。だからこそ人々が山に関心を持たなくなると、その森林は仮に価値を持っていたとしても動かなくなりますし、循環も滞ってしまいます。そのため、放置林が全国各地で増加している背景には、木材価格の低下、市場の縮小、林業従事者の減少、山村からの人口流出、所有者の無関心といったさまざまな要因が、重なり合っています。

全国一律ではなく、各地域に合った森のあり方を考える

「日本の森林が目指すべき姿は、どんな森林なのでしょうか?」と聞かれることがありますが、わたしはこの問いに対しては、「地域による条件が違いすぎて、一つの答えを出すのは難しい」というのが答えだと思っています。

というのも、たとえ隣り合っている地域だとしても、そこに生えている木が違えば管理の仕方も当然違ってきます。地形や気候が地域ごとで全く違えば、最終的に目指す森林像も全く違ってくる。そのため、その地域に合った森林のあり方を、それぞれの地域で考える、ということが大事だと思っています。

ですが、そのために活用できる国の支援は画一的な枠組みのものが基本となっています。日本は南北に長く標高にも幅があるため、場所によって植生が全く違うという性質があるのですが、森林政策に関しては、内容が単一のものも多いと感じています。だからこそ、地域で森のことを考えられる人が集まって、「うちの地域には誰がいてこういう制度が活用できそう」とか、「この森林ではこういう方向性を目指そう」とか、そんな話をしながら一緒にやっていくことが、一番うまくいくんじゃないかと考えています。

まずは暮らしに近い森から考える

ただ、「まずどこから手を付けるべきなのか」という検討もあると思います。今ある森林を適切に管理するといっても、その「適切さ」とはどこまでやることを指すのか。

たとえば仮に、その「適切さ」とは「機械も人も入りにくい、切り立った奥山の場所まで手を入れること」なのかというと、そうではないと思うんです。わざわざ奥山に人が入っていって、道も作って、何十年スパンの林業をやって経済的に投資を回収するというのは、現状を踏まえるとなかなか難しいとも思います。

ダム建設などの公共事業も森林の適切な管理も、その目的は基本的には「人のため」だと思うんです。「人命が脅かされる事態を避けるための森林管理」ということが、最低ラインの考え方としてあるんじゃないかなと思っています。なので、まずは人が住んでいる地域の周辺の森林から考えていくことが重要だと思います。

所有者の経営的な視点を高める

また、森林管理や活用を進めるうえで、私は、所有者の経営的な視点を高めることもとても重要だと考えています。たとえば、良い木が沢山育っていて、補助金もうまく使えばお金になる山を持っていても、そのことを所有者自身が知らなければ、そのまま伐られず放置されてしまいます。人が自分の森に手を入れようと思う基準となるのは、義務感などもあるとは思いますが、経済性が大きいはずです。地域で仮に「あの人の森を伐ったら、こんなにお金になったらしいよ」という事例が生まれると、うわさが広がって地域のみんなが木を伐り始める、というようなことも起こり得るわけですよね。基本的に、身近な森林は個人や団体、会社などが所有していることが多いので、そうした「生活圏に近い森林」に対していかにアプローチするかが重要だと思います。

所有者と連携した施業
(イメージ)

地域の森を一緒に考える「伴走者」の可能性

ただその前提には、やはり専門的な知識を持った人がサポートに入る工夫も必要かと思います。今の森林所有者の多くは、林業や森林管理の専門家ではないので、たとえば都道府県の林務職員や森林組合、民間の林業会社など、専門性を持ったアクターがサポートして一緒に考えるような取り組みは重要だと思っています。

そうした取り組み自体は今少しずつ増えてきています。市町村が林業の専門家に委託して、コンサルタントのような役を担ってもらう地域林政アドバイザーという制度もあり、導入事例もいくつもあります。市町村が林業の専門家に委託して、コンサルタントのような役を担ってもらう制度で、導入事例もいくつもあります。また、都道府県の元職員や林業の会社などがコンサルに手を広げて取り組んでいるような事例もあります。そんなふうに、専門知識を持つ地域の伴走者と森林管理をしていく取り組みは、今後、可能性を持っていると思います。

あとがき

森の課題は、制度と関心の課題でもある

今回の取材を通して、日本の森林が放置されてきた背景には、単なる経済的要因だけでなく、土地所有の制度変更と所有者の森林への関心度の低下が深く関わっていることを改めて実感しました。木材価格が低下し、市場が縮小する。それに伴い林業従事者が減り、山村から人が流出し、所有者も森から離れ、関心が薄れていく。そうした負の連鎖を経て、山がますます手が入らない存在となってきた経緯があるのだと感じました。

一方で、その状況を打開しようとする取り組みも、地域ごとに着実に生まれています。山下先生のお話からは、森の問題に向き合うためには、所有や制度、そして地域との関係そのものを見直す必要があることが伝わってきました。トリイアンドカンパニーとしても、矢作川流域のつながりのなかで、「森と人の未来のためにいまできること」を引き続き考え、実践していきたいと思います。
森の課題に向き合うことは、地域の関係に向き合うこと。そのことを改めて感じる取材となりました。

コミュニティデザイン事業部 高橋夏希

参考出典
・東京農業大学 教員紹介「山下詠子」
https://www.nodai.ac.jp/academics/reg/admission/kyoin/c003/
・東京農業大学 森林政策学研究室
https://www.nodai.ac.jp/academics/reg/for/lab/1008/
・東京大学学位論文データベース
「長野県における林野入会の現代的変容―所有形態と入会集団に着目して―」
https://gakui.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/data/h19/123605/123605a.pdf
・researchmap「山下 詠子」
https://researchmap.jp/7000020717
・東京農業大学 研究者情報データベース
http://dbs.nodai.ac.jp/html/100001115_ja.html

資料請求・お問い合わせ

我が家プロジェクトの魅力が凝縮された資料を無料でお届けしております。オンラインでのお打ち合わせもご対応可能です。その他、どんな些細なことでも構いません。ご質問がある方はこちらから。

メールでのお問い合わせ

メールでのお問い合わせお問い合わせフォーム

お電話でのお問い合わせ

お電話でのお問い合わせTEL 0566-75-1233