REPORT
くらしと森を「ほぐしながら」つなぐ -前編
PROJECT:流域連携
「森と人の未来のために いまできること」をビジョンに掲げるわたしたちトリイアンドカンパニーが、各地で森をフィールドに活躍するスペシャリストの方々にお話を伺い、実感や共感を発信していく企画。「より本質的なアクションは何なのか」「そもそも日本の森は、一体どうなっているのか」。複雑にからまっている現状を少しずつ解きほぐしながら、トリカンらしい「森と人がよろこぶ選択」を明らかにしていくプロセスを、取材レポートという形でお届けしていきます。
矢作川の水は、私たちの暮らしを日々支えています。ですが、その水を育む上流の森や地域に対して目を向ける機会は、案外少ないかもしれません。取材企画2回目となる今回は、長野県根羽村で地域の魅力を未来につなぐ活動を続ける、一般社団法人ねばのもりの杉山さんにお話を伺いました。東京出身の杉山さんはどのような想いがあって根羽村に移住し、取り組みを続けているのか。その人生観と深く結びついた森とのかかわり方を、全三回にわたってお届けします。

杉山 泰彦
2017年より、地方と都会の繋がりを支援する株式会社WHEREに参画。地域PR・移住定住サポート事業等で合計20地域のサポートを行ったのちに、2018年12月に東京から長野県根羽村に自らも移住。2019年4月-22年3月までは総務省・地域活性化起業人として根羽村PR戦略を担当し、任期中に2年連続社会増を実現。2020年8月に社団法人を立ち上げ、「村ごこちの良い里山の風景を持続する」ことを掲げて活動を行う。
きっかけは、都心で生きることへの「違和感」

私は今、一般社団法人ねばのもりとして地域に関わる活動をしており、根羽村に暮らしはじめてからは9年目になりました。もともとは東京で地域プロデュースのベンチャー企業に勤務し、地域PRのコンサルとして働いていたのですが、働くということ、都心で生きるということに対してどこか違和感があって。東京での生活は「自分がしたことで地域に何かを返している」というような実感がほとんどなくて、仕事と暮らしが切り離されているような感じがずっとありました。
私が求めていたのは、仕事で得たものをただプライベートの方で消費するような、一方通行の生活ではなく、仕事を通じて自分の暮らす場所や人との関係、生活そのものが少しずつ良くなっていくような、循環するような生き方でした。転勤の多い家庭で育ったので、いつもどこかに「つながりへの渇望」のようなものがあったのだと思います。
根羽村にはそうしたつながりが当たり前のように存在していました。自分で育てたジャガイモを「おいしい」と心から喜んで誰かと分かち合うような空気や、「足るを知る」感覚が自然と息づいていました。だからこそ「この人たちに学びたい」と強く思ったし、根羽村でなら自分が望む生活を実現できると思いました。
「やっぱり根羽っていいところだよね」を作っていく

仕事の原動力になっている気持ちは、移住した当初も九年目の今もまったく変わっていなくて、自分が好きになったこの村の良さを、きちんと残していきたいという想いだと思います。
根羽村は地域外の人からすると「限界集落」というイメージがあるかもしれません。実際に私が移住した当初も、根羽では「この村が好きだ」という気持ちをどこか素直に口にしにくい空気があったように思います。「人も少なくなってきているし、村の祭りも小さくなって、どんどん元気がなくなってきている。」というような、少し諦めにも近いものを、何となく村の人たちから感じていました。
これまで活動のベースとなってきたのは、そんな状況を何とかしたいという気持ちだったのだと思います。大切なのは「外からどう見えるか」ではなく、村の人が「ここで暮らしてきてよかった」と思えるだと思うんです。外側のイメージを変えるというよりは、村内の空気が「やっぱり根羽はいいところだよね」という声に変わっていく仕掛けを作っていくことが、私の根羽での仕事だと思います。
地域の魅力を地域内へ伝える

私が移住した当初に始めたのは、「根羽の魅力を、根羽村民に向けて伝える」ということでした。
根羽村に限らず、普通に生活していると、地域住民が他の領域の現場に行ける機会ってほとんどありません。ですが小さな村だとそんなことも可能になる。例えば最初にやったのは、学校での教育プログラムを村民に伝えることでした。村のカメラマンに現場の映像を撮ってもらって、村内ケーブルで流してもらい、学校や子供たちの様子を実感してもらえるような機会を作りました。そこから今では授業のなかでの地元農家との連携など、様々な場面で地域の大人が参加できる仕組みができています。
この村の人たちは、まず大前提、根羽の子どもたちのことを大切に思っています。子どもたち一人一人を見守る文化もあるし、「何か子どもたちのために貢献したい」と思っている大人も多い。なので、地域の人たちを現場に巻き込む機会を、必要なお金が循環する仕組みも含め、ちゃんと作っていくのが重要だと思いました。地域にすでにある良いものをまずは「地域内で知ってもらう」こと。そしてそれを未来につながる形で残していくこと。一般社団法人ねばのもりの存在意義も、まさにそこにあると思っています。


村の夏場のイベントは多くの村民でにぎわう
さて、前半はここまでです。
森林率が90%を超えるこの根羽村で杉山さんは、教育や移住をはじめとした、村民が多様な地域活動に参加できるような仕組み作りを行ってきました。ですが、森林に関する取り組みについては、今までどこか距離を置いてきたような感覚があったそうです。その背景にある思いは何なのか、そして森の取り組みに関して、今の段階で見据えていることはどんなことなのか、を中編でお話しいただいています。ぜひ次回の公開をお楽しみに!