REPORT
くらしと森を「ほぐしながら」つなぐ -中編
PROJECT:nisou
「森と人の未来のために いまできること」をビジョンに掲げるわたしたちトリイアンドカンパニーは、各地で森をフィールドに活躍するスペシャリストの方々にお話を伺い、実感や共感を発信していきます。「より本質的なアクションは何なのか」「そもそも日本の森は、一体どうなっているのか」。複雑に絡み合っている現状を少しずつ解きほぐしながら、トリカンらしい「森と人がよろこぶ選択」を明らかにしていくプロセスを、取材レポートという形でお届けしていきます。
今回も、前回に引き続き一般社団法人ねばのもりの杉山泰彦さん(以下、マギーさん)の取材記事をお届けします。地域に移住してすぐ、「村内向け」の発信から始めたというマギーさん。森については、なかなか手を付ける気持ちにはなれなかった、とおっしゃっていました。その背景にはどのような想いがあったのかをお聞きすると、人や村に対する誠実な気持ちを伺うことができました。
森は、ずっと気になっていたけれど、簡単には触れられない存在だった

教育現場に地域の人を巻き込みながら、まずは「内側向けに伝えていく」ような取り組みを地道に一つずつ積み重ねていく中で、森の話は私にとって、ずっと、どこか距離を置いてきたテーマでした。根羽村は、見渡せば本当に森ばかりです。面積としても村の9割以上を森が占めていますし、これまでをずっと森と共に歩んできたこの地域にとって、森林はとても大切な財産だと思います。
でもだからこそ、移住してきた自分のような立場の人間が、外から見て簡単に「これは課題だ」と言えるようなものではないとも感じてきました。もちろんずっと気にはなっていたけれど、かといって自分から軽々しく踏み込めるテーマではない。移住してからずっと手を付けられなかったのには、どこかそんな気持ちがありました。
それが、「輝く農山村地域創造プロジェクト」という県の支援事業を活用して、「新しい森林経営のあり方を作る」ことを村が提唱し、さらにそこに対して自分にも関わってほしいと言ってもらえた。すごくありがたいことだと思いました。
専門家ではなく、あえて「素人」の立場で関わる意味

この事業のなかでは、まずは森に興味関心を持つ人や企業を増やしていくことに取り組んでいくことを目標にしました。現代の森林の課題は、とても大きくて、複雑です。木材業界の規模や市場の大きさの中だけで解決できるならそれでもいいのかもしれませんが、たぶんそれでは足りません。なので、森や根羽村に対して興味を持った人が「自分はどう関わりたいか」を考えたときに、具体的な行動に移せるような選択肢を一緒につくっていくことが大事だと思っています。
私はよく思うのですが、森の世界に専門的に入り込むと、良くも悪くも「なぜそれができないのか」という理由がたくさん見えてきてしまいます。森林の色々な現状は、今までたくさんの取り組みがなされてきましたが、誰だって怠けているわけではありません。むしろすごく真摯に向き合ってきたからこそ、それぞれの事情や都合があるという壁に対峙し、簡単には動けなくなってしまったという経緯が多いんじゃないかと思うんです。
だからこそ、あえて“素人”の立場でいられることにも意味があるんじゃないかと。少し子どもっぽいくらいの感覚で、「森に入ったら楽しいじゃん」「気持ちいいじゃん」「もっとみんなで入ればいいじゃん」と言い続ける人がいてもいい。
根羽村には、制度や行政との調整といった現実的な部分を担ってくれている人もいます。その中で自分は、森を専門家だけのものにしないこと、そして森に関わる“素人”を増やしていくことかもしれないと感じています。
森をめぐる現場には、すでに懸命に頑張っている人たちがいる

森林に関する取り組みに対しては、国もいろいろな施策を打ち出していますし、補助金の仕組みも多くあります。そのなかで、大きな事業体がスケールメリットを活かして生産性を出しながら進めていく、という方向もあると思うのですが、根羽村での森づくりは、敢えてそうした戦略をとらない方針で進めています。
森林は、長期的な視点から計画的に管理を続けていくもの。でも、そうしたスケールアップの経営戦略をとると、目の前の経営を回すことで精いっぱいになってしまうと思うんです。今の木材市場は、ただでさえ規模が小さいものになっています。その中でいくら頑張っても、「頑張るほどに成果が出ない」ということになる可能性も高いし、頑張ったからといって必ず生き残れるという話でもありません。
そういう結末に向かわないために自分にできることは「こっちにも道があるよ」と別の可能性を照らす役なんじゃないかと思っています。裏道という言い方がいいのかわからないけれど、今のやり方だけでは苦しいのだとしたら、その外側にある選択肢を増やしていくことのほうが、自分の役割に近い気がしています。
森に関わる人たちが少し違う角度から森を見られるようにすること。外から関心を持つ人や企業に、もっと本質的な関わり方があると伝えること。そういう意味での「新しい視点」が必要なんじゃないかと思っています。
さて、今回はここまでです。次回は、杉山さん回の最後となる後編をお届けします。今、現在進行形で進んでいる「流域経済圏」を確立するための事業nebaneとは?その取り組みのなかで見据えていること、そして杉山さんの森に対する考え方、これからのことなどをお聞きすることができました。ぜひ最後までお楽しみに!