REPORT
くらしと森を「ほぐしながら」つなぐ -後編
PROJECT:流域連携
「森と人の未来のために いまできること」をビジョンに掲げるわたしたちトリイアンドカンパニーは、各地で森をフィールドに活躍するスペシャリストの方々にお話を伺い、実感や共感を発信していく企画を行っています。「より本質的なアクションは何なのか」「そもそも日本の森は、一体どうなっているのか」。複雑にからまっている現状を少しずつ解きほぐしながら、トリカンらしい「森と人がよろこぶ選択」を明らかにしていくプロセスを、取材レポートという形でお届けしていきます。
今回も、前回に引き続き一般社団法人ねばのもりの杉山泰彦さん(以下、マギーさん)の取材記事をお届けします。村に対して誠実な気持ちやリスペクトがあったからこそ、手を付けるのに慎重になってきた森の取り組みを、マギーさんはどう捉え、形にしているのか。どんな未来に向けて動いているのかを、お聞きすることができました。
森は、林業だけで評価されるものではない

根羽村は矢作川流域の源流地域としても知られる
私は森に対して、「独立採算で管理されなければいけない」とは思っていません。なぜかというと、森はインフラだからです。
たとえば水道事業って独立採算で成り立つべきかというと、そうではない部分がありますよね。水道は生活に欠かせないものなので、税金が使われています。森もそれと同じで、視点を広く大きくすると、森がなければ私たちの暮らしそのものは成り立たないはずなんです。
でも今は、森が主に「林業」という観点から評価されています。木材を生み出す産業としての価値は見られても、水を育てること、生物多様性を支えること、気候や暮らしの基盤になっていることといった、インフラとしての価値は十分に評価されていないように感じています。
ただ、その流れも今、少しずつ変わってきているとも思います。森林環境税が導入されたり、水源管理の重要性が見直されたり、森林の多様な価値を大切にしようという動きも多く出てきています。ただ、それが一般大衆にまで認知が広まっている段階にはまだ至っていない。なのでそこの接続役として自分たちが担えることは、きっとあるだろうと思っています。森には多様な価値があるよ、ということをもっと知ってもらって、それぞれが自分の人生と森を接続していけたら、可能性はもっと見えてくるんじゃないかと思います。
「今できること」ではなく、「本当に必要なこと」から考える

村内の製材所
ここまでの森の取り組みで手ごたえを感じていることは、森に対して、村民の「課題認識」の質が、少しずつ上がってきていることかもしれません。
たとえば根羽村役場には、これまでも森林のことを担当する林務課はありましたが、それはあくまで林業という立場から森を見る役割でした。でも本当は、「中長期的な視点や環境的な視点から森全体を見ていく」ような役割の人が重要で、しかもその時間軸は、最低でも20年先くらいを見据える必要がある。そう考えると、数年単位で異動のある役場の仕組みだけで、中長期的な森の管理を担い続けるのは難しいかもしれない。そうした現状認識が、村の中でもだいぶ共有されてきた感じがあります。
だからこそ、官民連携でその役割を担っていくことや、矢作川水源の森のビジョンマップづくりも、非常に意味があると思っています。矢作川水源の森は、安城市と根羽村が昔から共同で管理してきた森ですが、中長期的な視点で森の未来像を描くようなビジョンマップは、これまでありませんでした。そういう意味では、これまで手探りで続けてきたことが、少しずつ成果につながる方向へとシフトし始めているような感じがあります。
森を“ほぐしながら”未来につなげていきたい

これまではどうしても、「今できること」の範囲の中でしか選択できない場面が多かった。前年踏襲もあるし、本質に向かっていないとわかっていても、その場で実行可能なことを選ばざるを得ないことが多かったと思います。ですがこれからは、「理想の未来はどうあるべきか」というところから逆算して、「そのために今やるべきことは何か」を考え、計画していくのが重要かなと。
自分がやりたいのは、森をひとつの正解に当てはめることではなく、可能性を「ほぐしていくこと」です。森のことを、林業だけでもなく、体験だけでもなく、教育や食や水や香りといったいろんな要素を持ち込んで、凝り固まってしまった状況を少しずつほぐしていけたらと思います。
遊びながら関わる人がいていいし、制度や管理の面から支える人もいていい。色々な立場があってはじめて、可能性が広がっていく気がしています。自分はその中で、「素人のままで」そして「子どものように」、地道に取り組みを重ねていきたいと思います。

参考出典
nebane(根羽村 輝く農山村事業)について
https://nebane.jp/about/
矢作川水源の森
https://www.city.anjo.aichi.jp/kurasu/bika/kankyoikurin.html