地域のこと
森の多様性を守る「うんちの力」とは
先日のこと。長野県根羽村のハッピーマウンテンさんの牧場で、牛のうんちを使った染物を体験するイベントに参加してきました。
はじめは「牛のうんち…?」「臭そう」と、遠慮していたのですが、実際に落ちているものを触ってみるとびっくり。ほとんど嫌なにおいがしないことに気が付きました。ハピマの牛は牛舎で飼育している牛と違って、動物性の飼料などではなく牧草を食べているため、臭いにおいがしないのだそうです。


参加者のみなさんとお互いに自己紹介をしてから、イベントスタート。牛のうんちを採取しながら、幸山さんが「うんちと森の生態系」についてレクチャーをしてくれました。その中で特に、印象的だった話があります。「うんちが生物多様性を高めてくれる」という話です。
牛のうんちが牧場に落とされると、その周辺にはうんちを分解する「ふん虫」が集まってきます。ふん虫が分解したうんちは長い年月をかけて土の一部となり、次の世代の植物を育てていくわけですが、このふん虫には、実は絶滅危惧種が多くいるそうです。現代は水洗トイレが発達し、放牧も減少するなど「うんち不足」の時代。様々な要因で世界的に「うんち不足」となっている土が多く、その分、ふん虫も減ってしまっているのだそう。
ハピマには「コガネムシ」というカブトムシの仲間のふん虫がおり、わたしたちがうんちの観察をした時にも、見つけることができました。


「森の生物多様性」というと、地面の上の話、つまり木や草花、動物たちの話題になりやすいかもしれません。ですが地面の中、つまり土壌動物や微生物の多様性も、持続的に森が続いていくためには非常に大切な要素だと感じます。その意味で、昨今、各地でワークショップが開催されている縄文トイレやコンポストトイレなどは、土壌の生物多様性を高めるためにも理にかなった自然への寄り添い方なのだと思いました。
わたしたちは、環境問題のことを考えるとき「人がいるからダメなんだ」とか「人間のせいで」と考えてしまいがちです。子供向けの環境教育の場面でも、そうした文脈で生物多様性や温暖化のことが語られることも多いように思います。ですが本当は、人がいるのがダメということではないのかもしれません。そうではなく、「どんなふうに自然環境と寄り添って生きていたいか」「生態系の循環のなかで、人間が求められていることは何なのか」を、改めて見直していくことのほうが大切なのかもしれないと感じました。幸山さんの話からは、ただの「人間責め」で終わるのではない「自然環境への寄り添い方」を学ぶことができました。
