森のこと
クマを飢えさせる、木の静かな戦略
ブナという木があります。
漢字で書くと「橅」。木へんに「無い」という漢字が当てられるほど、人にとっては「使い方が無い」とされる樹種です。ですが、森の土に保水性を与えたり秋の紅葉がとても美しかったりと、広葉樹としてとても魅力的な樹種です。また、クマの大好物であるどんぐりをつける木でもあります。
ブナは、その「どんぐりの落とし方」に生存のための強烈なしたたかさを垣間見ることができます。「ブナの豊凶」と呼ばれる現象です。
5~10年に一度広い範囲で一斉にどんぐりを落とす「なり年」というものがあります。なり年以外の年月は、どんぐりはほとんど落とさずずっと「凶作」です。何年も何年も、地域一帯でどんぐりができないということが頻繁に起こります。
10年くらいどんぐりが落ちない年が続いて、ある秋にいきなり、どさりと大量にどんぐりが落ちる。どうしてこうした周期性があるのか、その理由には、「クマの数をコントロールしている」という説があります。
クマが増えすぎてしまうと、次世代のブナを担う大切などんぐりを食べられすぎてしまいます。どんぐりを作るのにもかなりのエネルギーが必要ですが、それがほとんど食べられてしまっては、ブナは生き残ることが出来ません。そこで地域一帯のブナと連動して豊凶を厳しくすることで、天敵であるクマをある程度餓死させるわけです。
ブナの生存をかけた天敵との知恵比べ。すごく興味深く思えてきます。

森の木々も街なかの街路樹も、一見すると「ただ生えている」ようにしか見えません。ですが、本当はすべての樹木にしたたかな「生きものらしさ」があります。身近だけど、意外に知らない木のこと。もしかするとあなたの周りの木にも、こうした戦略が潜んでいるかもしれません。