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森林経営への関心を高めるには 東京農業大学 山下詠子先生 -前編

PROJECT:nisou

「森と人の未来のために いまできること」をビジョンに掲げるわたしたちトリイアンドカンパニーは、各地で森をフィールドに活躍するスペシャリストの方々にお話を伺い、実感や共感を発信していく企画をスタートします。「より本質的なアクションは何なのか」「そもそも日本の森は、一体どうなっているのか」。複雑にからまっている現状を少しずつ解きほぐしながら、トリカンらしい「森と人がよろこぶ選択」を明らかにしていくプロセスを、取材レポートという形でお届けしていきます。

第一回となる今回は、森林の所有者に関する課題にお詳しい東京農業大学 森林政策学研究室山下詠子准教授にお話をうかがいました。日本は国土の7割を森林が占める森林大国ですが、近年管理がされず放置されている現状があります。その背景としては、これまで一般的に「木材価格の低下」や「林業従事者の減少」が語られてきましたが、本当はそれだけではなく、「森林を誰が所有し、誰が管理し、どのような仕組みのもとで意思決定していくのか」という所有権や判断のあり方も、現代の森林管理に深く影響しています。
森林所有者を取り巻く環境はどのように変化し、それに対して森林はどう変わってきたのか。わたしたちに求められることは何なのか、お話しいただきました。

東京農業大学 地域環境科学部
森林総合科学科
准教授 山下詠子 先生

東京農業大学の森林政策学研究室に所属し、農山村の地域コミュニティと森林の関わりを軸に、入会林野、共有林管理、森林政策、森林所有制度などを研究。テーマは「地域の共有林についての研究」で、東京大学在学時は、博士論文「長野県における林野入会の現代的変容―所有形態と入会集団に着目して―」を執筆し、入会林野の所有形態の変化と、それが地域の共同利用や森林管理に与える影響を明らかにしました。主な実績として、単著『入会林野の変容と現代的意義』(東京大学出版会、2011年)ほか。

地域共同で持つ山、入会林野と集落の関係

私はこれまで一貫して入会林野(いりあいりんや)の問題を見てきました。入会林野というのは、集落や部落といった地域のコミュニティが共同で所有・活用してきた山のことで、わたしはその管理、利用、所有のことなどについてずっと研究してきています。特に博士論文では、長野県を主なフィールドとして、明治期以降に土地の法制度の変更や様々な政策を受けて、各地域がどのように対応してきたのかをその違いも含め、まとめる研究をしました。それぞれの集落や地域によって、入会林の管理への対応に違いがあったため、地域の方への聞き取りや村史のような地域の歴史がまとめられた文献を調査しながら整理していきました。

江戸の街並み
(イメージ)

山の権利がいくつも重なり合っていた江戸時代

現代は、ある土地にはまずその土地を持っている所有者がいて、その人がすべての権利を持っていると考えるのが自然です。一方、江戸時代の山は必ずしもそうではありませんでした。たとえば藩の支配下にある山であっても「生えている木を伐るのは禁止だけど、雑木や下草、枯れ枝などは村の人が自由に採って良い」と、部分的にお墨付きを与える形をとっていました。つまり、一つの土地に対して、いくつもの権利が重なり合って存在していたわけです。「この山は誰のものか」というより、「この山を誰が、どう使えるか」が重層的になっていたというのが、江戸時代だったといえます。

江戸時代の山林活用
(イメージ)

明治期の土地制度の変更

ところが明治時代に入ると、近代的な国家を作るために土地に関わる法体系も見直され、「土地の所有者がその土地に関する権利をすべて持つ」という「一物一権」の方向へ整理が進んでいきました。制度としてはわかりやすくなった一方で、その過程でそれまで地域のなかで完結してきた利用の仕組みが、制度のなかできれいに収まりきらず、地域や集落によってさまざまな対応が生まれてしまいました。さらに、森林政策や地方自治政策への対応が地域ごとに多様であったことも影響して、入会林野はさまざまな所有名義に分化してきました。

森に手を入れたくても、すぐには手を入れられない現実

たとえば、地域で共同利用していた山が、制度変更のなかで多数人の共有名義で登録したとすると、その後、何世代にもわたって相続が発生すれば、権利関係はどんどん複雑になります。仮に50名で登記している森林に手を入れようとしたら、その人たちがすでに亡くなっている場合、すべての相続人から同意をとらなければなりません。50人それぞれに10人の相続人がいれば500人、さらに代替わりが進めばもっと人数が増えます。このように、入会林に手を入れようと何か一つ手続きを進めるだけでも、数百人に向けた確認や同意が必要となる場合があり、この作業が手間も時間もかかるし、すごく大変なんです。森林整備や売買、公共事業への対応等、何をやるにしてもまず入口の時点で非常に大きな壁があるわけです。だからこそ私は、「自分が所有する森林に関心がない人も増えている中で、どのような管理や経営ができるか」というところに関心があり、サポートしていきたいと思っています。


少し短いですが、前半はここまでです。

後半では
日本の森林課題に影響を与えたのは木材価格の低下だけではない
各地域に合った森のあり方を考える
所有者の経営的な視点を高める
などをテーマにお話しいただいています。ぜひ記事の公開をお楽しみに!


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